給与計算・源泉徴収・年末調整の始め方

Payroll Basics

給与計算は「給料を振り込む作業」だけではない

従業員を雇うと、毎月の給与計算が発生します。給与計算では、基本給や残業代などの総支給額を出し、社会保険料、雇用保険料、源泉所得税、住民税などを差し引き、従業員へ支払う手取り額を決めます。

ここで差し引いたお金の一部は、会社が預かって後日納めるものです。つまり給与計算は、従業員への支払い、税金・社会保険料の納付、会計処理、資金繰りがつながる実務です。

このページでは、初めて人を雇う会社・個人事業主向けに、専門用語をほどきながら毎月の流れを整理します。

ユウ
給与計算って、月給20万円なら20万円を振り込めばいいんですよね。
ミナミ
そこから保険料や税金を差し引きます。さらに会社が別で負担する社会保険料もあります。
ユウ
給与明細の裏に、そんな舞台裏が。
ミナミ
はい。給与明細は、数字の小さな劇場です。

まず知っておきたい用語

総支給額基本給、残業代、手当、交通費など、控除前の支給額です。
控除給与から差し引く金額です。社会保険料、雇用保険料、税金などがあります。
手取り額総支給額から控除を差し引き、実際に従業員へ支払う金額です。
源泉所得税給与を払う会社が、所得税をあらかじめ差し引いて納める仕組みです。
住民税の特別徴収会社が従業員の住民税を給与から差し引き、自治体へ納める仕組みです。
年末調整1年間の給与と控除を確認し、源泉所得税の過不足を精算する手続きです。

給与計算の大まかな流れ

給与計算は、毎月同じ順番で進めるとミスを減らせます。最初は難しく感じますが、「勤怠を集める」「支給額を出す」「控除する」「払う」「納める」に分けると見通しがよくなります。

順番やること確認ポイント
1. 勤怠を締める出勤、退勤、休憩、残業、有休、欠勤を確認します。打刻漏れ、休憩時間、残業申請、シフト変更を給与計算前に直します。
2. 支給額を計算する基本給、時給、残業代、休日手当、通勤手当などを集計します。固定残業代、深夜勤務、欠勤控除、交通費の非課税枠などを確認します。
3. 控除額を計算する社会保険料、雇用保険料、源泉所得税、住民税などを差し引きます。扶養、保険料率、住民税通知、入退社月の扱いに注意します。
4. 給与明細を作る支給、控除、差引支給額を従業員に見える形にします。従業員が見ても理由がわかる明細にします。
5. 振込・納付する従業員へ給与を支払い、預かった税金や保険料を納めます。給与支払日、源泉所得税、住民税、社会保険料の納付予定を資金繰り表に入れます。
6. 会計へ反映する給与、法定福利費、預り金、未払金などを記録します。会計ソフト、税理士、給与ソフトの連携方法を決めます。

毎月の控除で見落としやすいもの

給与計算で混乱しやすいのは、従業員から差し引くものと、会社が負担するものが混ざることです。給与額だけを見ていると、会社全体の人件費を小さく見積もってしまいます。

項目誰のお金か実務での見方
健康保険・厚生年金従業員負担分と会社負担分があります。従業員負担分は給与から控除し、会社負担分は別に資金繰りへ入れます。
雇用保険料従業員負担分と会社負担分があります。給与額や業種によって計算が変わるため、料率の更新に注意します。
源泉所得税従業員の所得税を会社が預かります。給与支払後に納付するため、会社のお金と混ぜて使わないようにします。
住民税従業員の住民税を会社が預かります。自治体から届く通知額をもとに、毎月の給与から差し引きます。
立替金・社宅・貸付など会社と従業員の取り決めによります。給与から控除してよいものか、事前の同意と根拠を確認します。

給与支払いで決めておく社内ルール

給与計算のミスは、計算式だけでなく、締め日前後の運用から起きます。次のルールを先に決めると、毎月の確認が楽になります。

締め日と支払日

毎月何日までの勤務を、いつ支払うかを決めます。資金繰り表にも固定で入れます。

勤怠修正の期限

打刻漏れ、休憩、残業、有休の修正期限を決めます。

残業の承認

事前申請か、事後確認か、誰が承認するかを決めます。

給与明細の渡し方

紙、PDF、給与システムなど、従業員が確認できる方法を決めます。

振込エラー時の対応

口座情報の誤り、組戻し、再振込の責任者と手順を決めます。

退職月の扱い

最終給与、有休消化、社会保険料、住民税の扱いを事前に確認します。

ユウ
給与計算は税理士さんに頼めば、勤怠の打刻漏れも魔法で直りますか。
ミナミ
直りません。元の勤怠データが間違っていると、正しい給与計算もできません。
ユウ
入力がふわっとしていると、出力もふわっと。
ミナミ
給与計算では、ふわっとはだいたい差戻しです。

源泉所得税と住民税は「預かっているお金」

給与から差し引いた源泉所得税や住民税は、会社の利益ではありません。従業員から預かり、税務署や自治体へ納めるお金です。資金が足りないからといって、運転資金のように使ってしまうと後で苦しくなります。

給与支払日だけでなく、納付日もカレンダーに入れます。納税資金を残す考え方は、納税資金の準備で詳しく整理しています。

項目支払い先管理のコツ
源泉所得税税務署給与支払後に納付予定へ入れます。納期の特例を使う場合も資金を残します。
住民税自治体自治体ごとの通知額を確認し、毎月の給与から差し引きます。
社会保険料年金事務所・健康保険組合など従業員負担分と会社負担分を合わせて資金繰りに入れます。
労働保険料労働局など年度更新のタイミングでまとまった支払いが出るため、年間予定に入れます。

年末調整でやること

年末調整は、毎月の給与から差し引いてきた源泉所得税と、1年間の実際の所得税額を比べて過不足を精算する手続きです。従業員から各種申告書を集め、扶養、保険料、住宅ローン控除などを確認します。

年末に急に始めると、書類回収や確認が遅れます。秋頃から従業員へ案内し、必要書類、提出期限、差戻し時の連絡方法を決めておくと進めやすくなります。

従業員へ案内する

提出書類、提出期限、入力方法、問い合わせ先を知らせます。

申告書を集める

扶養控除、保険料控除、基礎控除など、対象者に応じて書類を集めます。

1年分の給与を確認する

入社・退職、前職分、賞与、控除額を確認します。

過不足を精算する

還付または追加徴収を、給与支払いと合わせて処理します。

社労士・税理士・給与システムの分担

給与計算は、労務と税務が重なる実務です。誰に何を任せるかを決めておかないと、確認漏れや二重入力が起きます。

相手・仕組み主に得意なこと依頼前に決めること
社会保険労務士労働保険、社会保険、勤怠、就業規則、入退社手続き、給与計算代行。勤怠データの渡し方、締め日、入退社連絡、年末調整の扱い。
税理士源泉所得税、年末調整、会計処理、法人税・所得税・資金繰りとの接続。給与仕訳、預り金、納付予定、月次試算表への反映方法。
給与・勤怠システム打刻、シフト、残業、有休、給与計算、明細、データ連携。自社の勤務ルール、承認者、権限、外部専門家との共有方法。

社労士や税理士の選び方は、社労士の選び方税理士の選び方で確認できます。

小さな会社が失敗しやすいパターン

  • 給与の額だけを人件費として見て、会社負担の社会保険料を忘れる
  • 打刻漏れや残業申請を締め日後にまとめて直している
  • 源泉所得税や住民税を、納付日まで会社のお金と混ぜている
  • 入社時の扶養情報や前職の源泉徴収票を集め忘れる
  • 年末調整の書類回収を年末ギリギリに始める
  • 退職月の社会保険料、住民税、最終給与の扱いを事前に確認していない
  • 給与計算ソフトを入れたのに、勤怠ルールや承認ルートが曖昧なままになっている
ユウ
給与計算は、勤怠、税金、保険、会計、資金繰りが全部つながるんですね。
ミナミ
はい。だから最初に流れを決め、毎月同じ手順で確認できるようにします。
ユウ
給与計算、毎月の小さな決算ですね。