Emergency Stockpile
最初に買うのではなく、「何人が何日とどまるか」を数える
会社の防災備蓄は、品目を思いつくまま買うより、災害時に事業所へ残る最大人数を決め、まず3日分を数量に直すと抜け漏れを減らせます。
内閣府の帰宅困難者対策ガイドラインでは、全ての事業者を対象に、3日分として1人あたり水9L、主食9食、毛布1枚を目安にしています。携帯トイレは、成人の平均排泄回数1日5回を基準にすると1人15回分です。
買って終わりではありません。浸水や転倒で取り出せない場所を避け、期限・数量・保管場所・担当者を台帳に残し、実際に配れるかまで確認して初めて「使える備蓄」になります。
1人あたり3日分の基本数量
次の4項目を最低限の計算の入口にします。簡易トイレ、衛生用品、照明などは、水や食料と同じくらい早い段階で必要になります。
| 品目 | 1人・1日 | 1人・3日 | 計算の注意 |
|---|---|---|---|
| 飲料水 | 3L | 9L | 飲用・調理用の目安。手洗いや清掃などの生活用水は別に考える。 |
| 主食 | 3食 | 9食 | 水や加熱がなくても食べられる品を一部含める。 |
| 携帯・簡易トイレ | 5回分 | 15回分 | 便袋・凝固剤だけでなく、回収用袋と保管方法も決める。 |
| 毛布・保温シート | ― | 1枚 | 季節、夜間勤務、床の冷えに合わせ、敷物も検討する。 |
3日分は一斉帰宅を抑え、救助・救命活動を優先する期間を支える基準です。孤立しやすい地域、物流の復旧に時間がかかる地域、自治体がより長い備蓄を案内している地域では、所在地の防災計画に合わせて日数を増やします。
5人・10人・20人なら、最低量はいくつか
常時の在籍人数ではなく、同じ時間帯に事業所へいる可能性がある最大人数で計算します。従業員に加え、常駐する委託先、来店客、打ち合わせ中の取引先をどこまで受け入れるかも決めます。
| 対象人数 | 飲料水 | 主食 | 携帯トイレ | 毛布等 |
|---|---|---|---|---|
| 5人 | 45L | 45食 | 75回分 | 5枚 |
| 10人 | 90L | 90食 | 150回分 | 10枚 |
| 20人 | 180L | 180食 | 300回分 | 20枚 |
基本式は「対象人数 × 1人あたり3日分」です。来客が多い店舗やショールームは、最大人数をそのまま全員分へ足すと保管が難しくなることがあります。「従業員全員分」と「来客を一時保護する追加分」に分け、営業時間帯と避難先も含めて現実的な受入人数を決めます。
会社・店舗の防災備蓄チェックリスト
| 分類 | 先にそろえるもの | 選ぶときの確認 |
|---|---|---|
| 水・食料 | 飲料水、主食、缶詰・レトルト等の副食、栄養補助食品 | 常温保存、賞味期限、開封器具、必要な水・熱源、アレルギー表示、食べやすさ。 |
| トイレ・衛生 | 携帯トイレ、回収用ごみ袋、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、手袋、マスク、生理用品 | 使用手順、使用済み便袋の一時保管場所、臭い対策、手指衛生。 |
| 照明・情報 | 懐中電灯、ランタン、ラジオ、予備電池、紙の連絡先・地図 | 暗い場所で使えるか、電池サイズ、充電残量、担当者が不在でも場所が分かるか。 |
| 電源・通信 | モバイルバッテリー、充電ケーブル、必要なら予備回線 | 端子の種類、同時充電数、定期充電、停電時に止めない連絡・決済・受注業務。 |
| 保温・休息 | 毛布・保温シート、敷物、雨具、使い捨てカイロ | 季節、床面、夜間勤務者、濡れた場合の予備、保管容積。 |
| 救急・健康 | 救急用品、体温計、持病・アレルギー等に配慮した個別備え | 使用期限、扱える人、従業員本人が管理する薬、必要な支援の確認方法。 |
| 安全・避難 | ヘルメット、軍手、ホイッスル、ブルーシート、工具、養生テープ | 避難経路を塞がない配置、建物・業種のリスク、使い方、消防設備との区別。 |
| 事業継続 | 顧客連絡文、従業員連絡網、重要取引先、紙の業務手順、現金・伝票類 | 停電・通信障害時にも見られるか、個人情報を安全に保管できるか。 |
発電機や燃料を備える場合は、種類と数量によって危険物関係法令や消防署への手続き、建物の保管ルールが関係します。購入前に管轄消防署と建物管理者へ確認してください。
水と食料は「保管できる」だけでなく「その場で食べられる」で選ぶ
加熱不要を混ぜる
カップ麺やアルファ化米だけでは、水と熱源が足りない時に困ります。開けてそのまま食べられる品を含めます。
味と食べ方を試す
期限前の入れ替え時に試食し、量、硬さ、必要な器、片付けまで確認します。
食事制限を確認する
アレルギー、慢性疾患、かむ・飲み込む力などに応じた個別の備えが必要か、本人と相談できる窓口を決めます。
水の用途を分ける
1人1日3Lは飲用・調理の入口です。清掃、手洗い、設備停止時の用途は別枠で確認します。
農林水産省は、普段食べる常温食品を少し多めに持ち、古いものから食べて補充するローリングストックを案内しています。会社でも、定期的な試食日や社内配布日を決めれば、期限切れによる一括廃棄を減らせます。
携帯トイレは便袋だけでなく、使用後まで設計する
断水していなくても、排水管が損傷している可能性がある時に水を流すと、下階への漏水や汚水の逆流につながるおそれがあります。建物管理者などが安全を確認するまで、携帯・簡易トイレへ切り替えられるようにします。
- 便器に取り付ける袋と凝固剤を、人数×15回分で用意する
- 使い方をトイレ内に掲示し、暗い時でも読める位置に置く
- 手袋、消毒用品、トイレットペーパーを同じ場所へまとめる
- 使用済み袋を二重にまとめる回収袋を用意する
- 自治体の災害時ルールに沿う一時保管場所と回収方法を確認する
水分を控えてトイレ回数を減らそうとすると、脱水など健康への悪影響につながりかねません。食料の箱数だけで安心せず、トイレを水・食料と同じ優先度で準備します。
保管は「1か所にきれいに積む」より、取り出せることを優先する
| 置き方 | 起きやすい問題 | 改善方法 |
|---|---|---|
| 地下・低い場所だけ | 浸水で水や食料、毛布が使えなくなる。 | 水害リスクを確認し、上階や別区画にも分散する。 |
| 高い棚へ集中 | 落下、棚の転倒、重い水を下ろせない。 | 重量物は低い位置へ置き、棚を固定する。 |
| 鍵付き倉庫だけ | 鍵の担当者が不在だと開けられない。 | 複数担当者と開錠方法を決め、保管場所を周知する。 |
| 1フロアへ集中 | 階段や通路が塞がると他フロアへ運べない。 | フロア・部署ごとに初日分を分散する。 |
| 避難経路の近くへ山積み | 通路を狭め、避難の妨げになる。 | 出入口、廊下、防火戸、消防設備の前を空ける。 |
水は特に重いため、棚の耐荷重や床への集中荷重を自己判断しません。量が多い場合は建物管理者へ置き場所を確認し、誰がどこから何箱運ぶかまで決めます。
備蓄台帳は9項目あれば始められる
高機能な管理システムがなくても、表計算で次の項目を持てば、買い過ぎ・不足・期限切れを見つけやすくなります。
| 台帳項目 | 記入例 | 何を防ぐか |
|---|---|---|
| 品目・規格 | 飲料水 500ml | 同じ「水」でも容量が違う混乱。 |
| 目標数 | 180本 | 人数変更後の不足。 |
| 現在数 | 156本 | 購入済みと思い込むこと。 |
| 不足数 | 24本 | 発注漏れ。 |
| 保管場所 | 2階倉庫A・3階給湯室 | 担当者以外が見つけられないこと。 |
| 期限・製造単位 | 2031年6月・箱A | 一斉に期限切れになること。 |
| 入替予定 | 2031年3月 | 期限直前に処分先を探すこと。 |
| 担当者 | 総務・副担当は店長 | 担当者不在で確認が止まること。 |
| 最終確認日 | 2026年8月21日 | 何年も箱を開けないこと。 |
数量は四半期ごと、電池・充電・ライトの動作は半年ごと、対象人数と保管場所は入退社・移転・レイアウト変更のたびに見直す、といった社内ルールを決めます。頻度は事業所の人数変動や商品の期限に合わせて調整してください。
30日で備蓄を整える進め方
- 1週目:人数と日数を決める。最大在所人数、来客の受入方針、所在地の条例・ハザードを確認します。
- 2週目:現在庫と置き場所を数える。水、食料、トイレ、照明、衛生、救急、毛布を同じ単位で台帳にします。
- 3週目:不足分を優先購入する。まず水・トイレ・加熱不要食・照明、その後に保温、救急、事業固有品を追加します。
- 4週目:配布訓練をする。停電を想定し、保管場所を開け、ライトを点け、1日分を各人へ渡せるか確認します。
購入の担当者と、災害時に配る担当者は同じとは限りません。店長や総務が不在でも、台帳・鍵・配布ルールが分かる副担当を置きます。
オフィス・店舗・一人会社で追加確認が変わる
| 事業所 | 追加で見ること | 先に決めること |
|---|---|---|
| オフィス | 高層階、エレベーター停止、長距離通勤者、会議中の来客。 | フロア分散、階段で運べる量、来客の一時保護、時差帰宅。 |
| 店舗 | 営業時間中の顧客、冷蔵品、火気、決済停止、トイレ、ガラス。 | 営業停止判断、顧客の避難先、火気停止、現金管理、店頭告知。 |
| EC・小規模倉庫 | 棚の転倒、梱包資材、配送停止、出荷データ、バッテリー。 | 通路確保、危険物・電池の保管、出荷停止連絡、在庫データの復旧。 |
| 一人会社・在宅中心 | 事業所と自宅の備蓄重複、外出先、取引先への連絡。 | 自宅備蓄との役割分担、持出袋、モバイル電源、紙の連絡先。 |
備蓄で起きやすい失敗
人数が古い
採用やシフト変更後も、購入時の人数のままで不足します。
お湯が必要な食料だけ
断水、停電、ガス停止が重なると食べられません。
トイレの後処理がない
便袋はあっても、回収袋、保管場所、衛生用品がありません。
一斉に期限が切れる
全量を同じ月に買い、更新費用と廃棄作業が集中します。
担当者しか場所を知らない
休日・出張・負傷時に、備蓄を取り出せません。
買った後に訓練しない
ライトが点かない、食べ方が分からない、運べない問題に気づけません。
よくある質問
3日分と1週間分のどちらを備えるべきですか
会社で従業員の一斉帰宅を抑える入口は3日分です。一方、広域災害や孤立リスクを考え、自治体が1週間分を勧める場合もあります。まず3日分の不足を埋め、所在地の被害想定、物流、従業員の家庭備蓄との役割を確認して上積みします。
会社の備蓄は法律上の義務ですか
全国の全事業者へ同じ数量を一律に義務付ける、と単純には言えません。自治体の条例で努力義務が定められている地域があり、消防計画や建物ルールも関係します。所在地の自治体・消防署・建物管理者へ確認してください。
従業員にも個人備蓄をお願いしてよいですか
歩きやすい靴、常備薬、眼鏡、個人用充電器などは本人の備えが役立ちます。ただし、会社が用意すべき水・食料・トイレをすべて個人任せにせず、会社分と個人分の境界を社内で共有します。
保管場所が足りない場合はどうしますか
初日分を各フロアへ分散し、残りを安全な倉庫へ置く、普段使う食品をローリングストックにする、小容量の水を一部採用するなどが考えられます。避難経路や消防設備の前へ置いて空間を作る方法は避けます。
市販の防災セットを人数分買えば十分ですか
セットは入口になりますが、水やトイレの数量、食事制限、来客、事業固有の用品、保管場所まで自動では決まりません。中身を台帳へ移し、会社の人数と3日分に照らして不足を補います。